【政府の景気落ち込み対策を分析】キャッシュレス決済「5%ポイント還元」、見込めない効果
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消費税10%への増税に伴う5%還元は、効果的なのか
政府は11月、平成31年の10月1日からの消費税増税に伴い、景気の落ち込み対策としてキャッシュレス決済利用時に支払い金額の5%をポイントとして還元することを検討中だと発表しました。10%増税実現が濃厚になった現在、増税のインパクトを景気にできるだけ影響させないために取り入れられる制度です。
適用期間は増税開始の平成31年10月から東京オリンピックまでの9ヶ月間。期間終了後は、東京オリンピック前後のインバウンド消費で、名目上の景気後退を防ぐ狙いがあります。政府は同時に、世界と比べて遅れている日本のキャッシュレス化対策にも着手したい考えで、現金以外の全てのキャッシュレス決済の利用が還元の対象です。
以前発表されていた「還元率2%」の政策の中身とほとんど同じで、還元率だけが2倍以上に跳ね上がったことになります。2%ではなく5%の還元になることで、どのようなメリット。デメリットがあるのでしょうか。
2%還元を2年続けるよりも、5%を短期間やったほうが効果的?
以前の発表時には2%だった還元率ですが、先月の発表では、驚きの5%にまで跳ね上がりました。2%よりも5%還元されるとその分実質的な割引分が大きくなるため、お得な響きです。ただ、この政策にもメリットとデメリットがあります。
2%よりも5%?どんなメリットがある?
2%から5%に還元率が引き上げられたことで、2%還元では得られなかったメリットが大きく2つあります。
- キャッシュレス決済システムの導入費用の回収
- 一時的に減税も?
以上の2点です。
キャッシュレス決済で還元対象になるのは、出資金一律1億円以下の中小企業でのお買い物に限られます。カード会社やキャッシュレス決済サービスを提供する会社としては、店舗の規模に合わせて複数のシステムを導入しなければいけないため、導入費用がかさみます。そのため、「たかが2%のためにそのような導入費用を払わなければならないのは採算に合わない」とカード会社等からの反発が出ていました。一方で、5%の還元率になると、加盟店が増え、手数料の収入も増えることになります。爆発的な利益増大に繋がる見込みはありませんが、持続的に一定数の利用者を獲得することができます。
さらにもう一つのメリットとしては、場合によっては減税同様の割引になることです。軽減税率との兼ね合いもあり、5%の還元だと増税とは逆に実質的に減税される品物があるのです。食料品や飲料などは、「国民の生活必需品」として10%の増税の対象外になります。食料品や飲料にかかる税金は8%です。キャッシュレス決済に伴う5%の還元は、食料品等の軽減税率対象商品にも適応されるため、実質3%の税率で買い物をすることができます。10%に引き上げられた商品も、5%の還元を受けられる場所と方法を用いると、現在払っている方法よりも安い税率で購入することができます。
一時的にでも減税になることは嬉しいですが、長所と短所は紙一重、これがデメリットにつながる可能性も大いにあります。どのようなデメリットがあるのでしょうか。
2%でも5%でもデメリットは根本的な部分にある
2%から5%への変更に伴うデメリットは、政策の本質的な欠点を除けば、大きく2つあります。
- 実質的減税終了後の急激な値上げに伴う消費意欲の減退
- キャッシュレス決済システム導入済み店舗とそうでない店舗の格差拡大
最も懸念されているのは、5%の還元期間終了後に増税の影響を大きく実感する消費者が多くなることです。
上記の通り、実質的に減税にもなる場合があるため、いつもより安く買い物ができる印象を持ってしまいますが、あくまでこの政策は9ヶ月間限定で、その後は10%の消費税の影響を直接受けることになります。名実ともに増税の波を受けることになり、消費の落ち込みは免れません。これに加えて、「高くなった」と感じる消費者が増えることも必至です。値上げを実感してしまった消費者の財布の紐は硬くなります。結果的に、遅れて景気の後退がやってきます。キャッシュレスシステムがどれだけ普及しても、全体の消費が減ってしまっては元も子もありません。
もう一つのデメリットとしては、中小企業の店舗の間での格差拡大が挙げられます。現状として対象になるような中小企業では、キャッシュレス決済よりも現金中心の決済システムを利用しているところが多数です。いくら中小企業でのキャッシュレス決済利用時に還元されるといっても、そもそもシステムの導入から始めなければならない店舗が多いです。導入には導入費がかかるサービスが多く、さらに毎回の決済時に手数料を取られるため、ただでさえ中小企業は経営が圧迫される現実があるため、導入は難しくなっています。
5%もの還元となると、キャッシュレスシステムを利用したい消費者は多くなるでしょう。そしてシステムを導入していない店舗から、導入している店舗へ、利用者が大幅に流れてしまう可能性が高いです。
中小企業の店舗の間で、恩恵を受ける店舗とそうでない店舗に二分されてしまうことになることが予想されます。増税の影響を受けやすい中小企業の店舗へ配慮した政策ですが、裏目にでる可能性が大いにあります。
不透明な金額設定
5%還元を歓迎する声もポツポツ聞かれる中、いまだに不透明なのが、還元対象の金額が「税込価格」か「税抜き価格」か、ということです。大した違いではないように聞こえますが、得られるポイントの額が少しずつ変わるので注意が必要です。9ヶ月間もの間、同じ還元を受け続けていると最終的には大きな違いになります。
例えば、増税後に、税抜き1,000円の食料品以外のものを購入したとします。もし、還元の対象が税抜き価格であった場合は、1,000円×5%で還元分は50円分相当になります。一方で、税込価格が還元の対象だとすると、増税後ですので税込価格は1,100円になります。1,100円×5%=55円になり、5円分も多くポイントがもらえることになります。還元期間の9ヶ月間の長いスパンで考えてみると、一定以上の額の違いになります。
現在の、様々なキャッシュレス決済サービスが提供するポイントシステムから鑑みると、税抜き価格からの還元となりそうですが、詳しいことはまだ発表されていません。
不透明な軽減税率の線引き
政府は増税に伴い、「国民の生活必需品」に対して増税を見送る「軽減税率」の導入を同時に発表しました。具体的にはアルコールやタバコ等を除く全ての食飲料品が「国民の生活必需品」の対象で消費税は8%のままになります。外食やケータリングは「必需品ではない」とみなされ増税対象です。
この線引きも怪しいところが多く、戸惑いの声が多く挙がっています。例えば、マクドナルドで注文するときによく聞かれるおなじみのこのフレーズ、「店内で召し上がりますか?」。これに返す返答次第で、払わなければならない税金の額が変わるのです。テイクアウトの場合は「外食ではない(=生活必需品)」と分類されるため消費税は8%です。ところが、一度「店内で」と答えてしまったら最後、「外食(=生活必需品ではない)」とみなされ10%分の消費税を払わなければならなくなります。様々な店舗で同様のケースが起こることが予想され、混乱を招くことは必至です。
また、「生活必需品には軽減税率を」という線引きにも疑問の声が上がっています。政府は、生活必需品である食飲料品を増税対象にすることは、国民の生活を圧迫する、として軽減税率対象にしていますが、それ以外の「生活必需品」には軽減税率を設けていません。最たる例が、光熱費や水道代です。外食が生活必需品でない、とみなされた現在、家で摂る食事が「生活必需品である」という認識が公的なものになりました。ところが、家で調理をするために必要なガスや電気、水には軽減税率は適応されません。ガスや電気、水は生活必需品ではないのでしょうか?
基本的な生活に必要なものは食飲料品だけではありません。IT化が進む現在、通信も大切な生活必需品ですが、通信費も値上げの対象となっているのです。キャッシュレス化を推し進めるための政策が5%還元なのにも関わらず、キャッシュレスで払うために必要な通信は増税するのです。
増税に伴い、様々な法案や政策が発表されていますが、本当にキャシュレス化の促進につながるのか、さらに国民生活への打撃は避けられるのか、引き続き注視が必要です。
さらに詳しい増税に関する記事はこちらから
消費税10%の増税に伴う、当初の景気後退対策として打ち出された「キャッシュレス決済2%還元」に関する記事はこちらです。5%還元が発表されましたが、大枠は2%発表時とほとんど変わりません。
https://www.ai-credit.com/article/taxraising-8to10percent-japan-government-sacrificing-elderlies/
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この記事のライター:Maya Shinoda / ポモチ専属ライター
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